OJAE研究史

OJAE研究開発 略史

  1. 2007: OPIテスター有志によるCEFR準拠OJAE研究グループの発足
  2. 2008: AJE-SIG チャナッカレ総会にてAJE-SIG 認可
  3. 2010: 研究書第1号発刊『CEFR準拠参照枠レベル例示:A1〜C2搭載』
  4. 2011〜現在に至る: 各日本語教育・言語教育学会での研究発表(AJEボルドーシンポジウム、ALTE−Krakau, AJEタリン, OPI Princeton-Univ.、AJEマドリッド、リスボン など)
  5. 2016: 白ブリュッセル研修会(ベルギー日本語教師会共催)
  6. 2018: 英カーディフ大学現代語科OJAEセミナー
  7. 2019: 名城大学OJAEセミナー

OJAE開発研究歴

前史―欧州日本語OPI研究会からOJAEプロジェクトに至るまで

OJAEのプロジェクト化に至るまでの前史としては、代表である山田の欧州土壌に於ける日本語学習者口頭能力評価法の構想を準備する継続的尽力があった。

山田は、2001年11月にトレーナーである鎌田修南山大学教授をベルリンに招聘し、ヨーロッパで初のACTFL-OPI試験官養成ワークショップを組織・運営することで、ヨーロッパの日本語教育界にOPIを導入した。以来、欧州日本語OPI研究会代表としての活動を通し、欧州に於ける日本語OPIを普及させてきた(欧州日本語OPI研究会発足の経緯についてはhttp://opi.jp/katsudo/kouryu/europ.html参照 [2009.7.25])。同時に、山田はこれまで開催されたOPI国際シンポジウムでの他地域との交流を通し、自身の日本語教育の実践が、他でもない欧州の言語教育理念・哲学に根差しているという事実も改めて強く意識することになった。CEFRが謳う複言語・複文化主義が、その民主的・人道主義的理念・哲学の故に、ACTFLガイドラインとそれに基づくOPIに取って替わる可能性を有することに深く気付いたのである。

OPIテスターとしての研鑽を積んだヨーロッパ各国在住の日本語教師達も、次第に、OPIで培った口頭表現能力評価能力とCEFRとの融合を図りたいと指向するようになってきていた。そこには、統一体としての経済・言語文化圏を目指すEUの「ボロニア・プロセス:大学構造改革」(1999年開始・2010年達成)の現場への波及、更にはEU各国で学校教育等を通じ複言語・複文化能力育成の具現化が推進されていることも背景にあった。

山田もそうした問題意識から、2006年8月末ベルリンで主宰した第5回日本語OPI国際シンポジウムのテーマを「ACTFL-OPIとCEFRの接点を探る」と設定した。ACTFLガイドラインとは根本的に異なるCEFRに拠る言語文化教育哲学を持ち、そこから政策が展開されているヨーロッパの土壌にあって、OPIで培ったテスター能力を基に、如何なる口頭表現能力の育成が可能か。これが、ヨーロッパ在住OPIテスターの火急の問となっていたからである。

ベルリンでのシンポジウム直後、山田に賛同する欧州日本語OPI研究会のテスター達が集い、CEFRの評価尺度に基づいた日本語口頭表現能力測定法の開発・研究を目的とした自主研究チームが結成された。この研究チームの目標は、当初より、現場の要請に即応が可能な、信頼性の高いテスト法・評価法の開発であった。 チームは、その目標対象を「CEFR準拠日本語口頭表現能力評価法」と規定し、「OJAE(Oral Japanese Assessment Europe)と名付けた。そして、1年後の2007年10月より実践研究活動に着手することになる。

OJAE第一期(2007.10〜2009.9.6)、第二期(2009.9.7〜2010.10.31)の3年間の研究開発過程を各日本語教育研究団体の学会、シンポジウムなどに於けるOJAE研究発表を中心に以下に記す。

2008.4.26 フランス日本語教師会主催第10回フランス日本語教育シンポジウム(リールにて開催)に於いて、「OJAE(Oral Japanese Assessment Europe)—CEFR 準拠口頭能力評価法の開発を目指して—」と題して初の研究発表。OJAEビデオ採録を通し、被験者が言語的には挫折をしても「非言語的に」自己の言わんとするところを継続して表徴する「コミュニケーション能力の発現例」を呈示。ビデオ採録がテスト後「言い得なかった部分のことば化をよりよく支援する」と論じた。

2008.8.27 ヨーロッパ日本語教師会(以下AJE)主催第13回ヨーロッパ日本語教育シンポジウム(トルコ、チャナッカレにて開催)に於いて、「OJAE:CEFR準拠口頭能力評価法—基本構想・開発現況・近未来の展望—」と題してワークショップを開催。参加者にCEFR表1による「親和セッションFamiliarization」を行なった後、MÜNDLICHテスト法に沿って採録したテスト・ビデオ5本を呈示し、同法の評定形式で上記「5領域」のレベル判定を依頼。CEFR参照レベルそのものの「未浸透ぶり」を認識する。同年度AJE会員総会にて、AJE-SIG Special Interest Groupとしての認可を受ける。

2008.9.3 –9.7: ベルギー、ブリュッセルにて、4日間の研究者会議開催後「第1回OJAE研究成果呈示コンフェランス」を開催。「意味分類タグ、及び難易度タグ付けされた日能試1級語彙9000語 」を出発点にし、そのうちから選択された400語をキーワードとした「400質問表」を作成。(但しOJAEは、上述したように、スピーキング・テスト制作設計に関して、語彙分類を出発点とするのではなく、言語行為論上の「状況・機能主義的テスト課題分類」を基盤に置くことにする。この制作青写真は、タスク課題作成の出発点となるだけでなく、OJAEテスティング「妥当性の検証のチェックリスト」 を構成することで、OJAEに明確な制作指針を提供することになる。)

2009.9.4 & 9.6: AJE主催第14回ヨーロッパ日本語教育シンポジウム(於ベルリン )に於いて「OJAE―CEFR準拠口頭能力評価法―」と題してワークショップ(以下WS)を開催。先年度OJAEブリュッセル会議の成果を基に「テスティング信頼性の検証法」に焦点を当てた。全参加者にDVD再生でチーム試作版「CEFRレベルB2想定の対話テスト」を呈示し、該当レベル基準(can-do statements 能力文)に沿って「課題ごとの達成度」の判定を依頼した上で、統計学的処理を行う。さらに、同サテライト会議として「第2回OJAE研究成果呈示コンフェランス」を開催。参加者総数計90名を越えるAJE-WS及びサテライト会議参加者による恊働姿勢から以下の4点が主要成果、同時に研究課題として記された 。

1. OJAE口頭表現能力テスト法の確立・テスト実施データ収集

2. 質問文の改善・拡張・OJAEテストへの組み込み

3. 明確な評価基準の構築・綿密な合否判定法の確立

4. レベル判定会議を通しての「テスト信頼性」の継続的な検出

第一期OJAE研究班活動終了:

OJAE実践研究は今般「テスト制作・評価法」プロジェクトを一応完了することができました。ここまで到達できたのは、一重に「第一期研究班員・先生方」による先達があればこそでした。ここに後続走者を代表致し、深く御礼申し上げます。第一期OJAE研究班会長:山田ボヒネック頼子准教授(ベルリン自由大学日本学科、ドイツ);(以下に第一期研究班員を敬称略にて紹介します: 副会長:三輪聖(ベルリン自由大学、ベルリン日独センター、ドイツ); 会計:千田理恵(ルードヴィヒ・ライハヤード高校、ドイツ); 酒井康子(ライプチヒ大学東アジア研究所日本学科、ドイツ); 萩原幸司DEA(EHESS社会科学高等研究院 博士課程、フランス); 高木三知子(ブリュッセル商科大学、CLL言語センター、ベルギー); 城戸寿美子(ベルリン工科単科大学ドイツ); 近藤正憲(イスラム共和国テヘラン大学外国語学部日本語日本文学科客員講師・国際交流基金海外派遣日本語教育専門家、イラン) 梅津由美子(カニージウス高校、ドイツ); 渡部淳子Dr. (ケルン大学東アジア研究所日本学科、ドイツ); 村田裕美子(ミュンヘン大学文化学部東アジア研究所日本学科、ドイツ); フレーデンハーゲン・村上淳子(オーバーヴィル高校、スイス)。

学術指導担当:山内博之実践女子大教授・橋本直幸首都大学助教授

第二期OJAE研究班稼働開始:

2009.9.7: 東京財団より、⑴新規OJAE研究者チームの対面会議開催3回分(①2009.12.4-6, ②2010.1.15-17, ③2010.3.10-14); ⑵「テスト法・判定法・基準ビデオDVD」制作,⑶CEFR-ESOL専門家コンサルタント料などを対象に研究支援助成を受ける。チームはこの助成対象の3回会議だけでなく、その後も自主的にタスク作成⇄基準設定・改訂⇄判定の作業を繰り返しては次第に「スクリプト及び該当視覚的プロンプト」からなるOJAEテストのひな型を確立していく。テスト実施例は共有者限定のWeb化によりチーム員よりオンライン判定を受ける。2010.8.30現在OJAEテスト録画のアップ数は90(被験者総数180名)を越える。

2010.5.8: ベルリンにて第2回研究者会議開催中、近郊日本語教育機関に参与を募り、 採録ビデオによる「第1回OJAE標準化キャリブレーション会議」を開催。外部者7名参加、計16名による本判定会議はその成果として以下の3点を明確にした。OJAEはこの3点に基づき、6.26の「第2回標準化キャリブレーション会議」を実施する運びになる。

1. CEFR共通参照枠に慣れるため「親和セッション」に「表1」を使用したが、本表は、本来判定用に尺度化されたものではないので、既述の曖昧さを含め、判定スケールには不適当と判断。次回には、OJAE基準表の使用が必須であるとの確認をする。

2. 評定結果データ集計、結果呈示を今回のようにその場で紙媒体/手入力で行なうのではなく、電子投票器システムを採用すれば、評価者間の評定結果は即時明示化されることになり、評価者は自己の判定結果の「逸脱度」が即自覚できるので、評価者間のテスティング信頼性を上げる「訓練過程」がより加速化されるはずである。

3. 次回標準化会議を、NORTH, B. (2009)『マニュアル』に沿った形でサンプル・ビデオのレベル基準設定化を企画することにより、CEFR準拠OJAE日本語文脈化は統計学的に妥当性の高いものにすることが可能となる。

2010.5.28: フランス日本語教師会主催第11回フランス日本語教育シンポジウム・リヨンにて「OJAE —CEFR準拠日本語スピーキングテスト及び評価法 —」の研究発表。OJAEテスト制作のプロセスは、「①状況・機能主義的言語行為基盤の設計図>②基準設定⇄テスト作成>③スクリプト/プロンプト化>④テスト実施>⑤評価基準設定>⑥基準ビデオ確定>⑦判定表作成>⑧OJAEチーム員/評価者間信頼性検証>⑨テスティング妥当性の検証」である。

2010.6.13: ドイツ中等教育日本語教師会第22回研修会ヴィースバーデンに於いて、 OAJE研究成果中間発表を実施。これまで皆無に等しかった「日本語口頭能力試験」の一方法の紹介は 高校教師より熱く向かえ入れられた。また、前後してライプチヒ大学日本学科やケルン大学教育学科でもOJAEメンバーによる講演やHP掲載などが企画・遂行される動きとなっている。さらに、ベルリン日独センター日本語講座では2009-10年度初級1クラスで学年末試験の一環として「詩の暗誦」とともに「OJAEテスト」が実施されることとなった。

2010.6.26: 上述2010.5.8の第1回レベル判定会議からの知見「3条件」を具現する形で、「CEFR準拠 第2回レベル判定会議」をベルリン自由大学にて計16名の参与を得て実施。電子投票システムを同大学CeDiS (Center of Digital Systems)から借り受け、7時間をかけて「親和セッション>全体評価による判定練習>『本番』6段階レベル判定評価による「基準サンプル」の確保に集中した。この統計学的結果分析は未完であるが、電子投票システムは「ゲーム感覚のおもしろさ」も手伝い、OJAEテスティングにおける判定者間(特にOJAEチーム員間の)信頼性を大きく前進させた。

2010.8.25: AJE2010年ブカレスト・シンポジウムに於いて70分のワークショップを実施。40名余の参加者を集め、チームは「OJAE表1『全体6レベルCDS』」、「表3『5領域-9段階』」及び「基準ビデオ」呈示を以て短時間ながら親和セッションをした後、レベル判定会議を持つ。この成果は最終的に「OJAE基準表」の完成として収斂した。

2010.9.16: 東京財団へOJAE成果物「暫定版:OJAE研究報告書初版及び基準サンプルDVD」を提出。同日、同財団からの正式承認を得て、成果物完成版の作成は最終段階に入る。

2010.10.30: OJAE実践研究第一次成果物「初版」(本書『OJAE研究成果報告:CEFR欧州共通参照枠レベル例示:日本語『発話・交話』© OJAE 2010)作成完了。今後日本語教育関係希望者に郵送実費にて送付していく。

2010.11.8: ロンドン大学SOAS開催「Learning & Teaching of Asian & African Languages in the 21st Century – Key Issues and Future Directions: An International Symposium on Benchmarking of Asian and African Language Learning and Teaching, and Training and Professional Development of Teachers」にて山田は招聘基調講演: “Project OJAE – Oral Japanese Assessment Europe, a CEFR-Oriented Speaking Test: CEFR-Linking of Japanese-specific CDS (Can-do Statements), Test-Production, Data Collection, Assessment in Reliability and Validity”. OJAEにとってはCEFR文化圏内での日本語教育以外の初舞台となる。欧州土壌に於ける非欧州印欧語の言語文化教育の専門家と討論し合える絶好の機会を与えられ、喜ばしい限りである。

2010以降: 日本語口頭産出能力評価法として完成したOJAEは、ヨーロッパ日本語教師会(AJE)が主催するヨーロッパ日本語教育シンポジウムを始め、世界各地でOJAE実践研究の成果を発表し続けている。また、それと並行して世界各地の日本語教師研修に招待講師として招かれており、OJAEの普及と共に、OJAE研究自体も一層の深化を続けている。

近年の研究成果については「OJAE関連の研究成果物」参照。

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